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 城下町の人々は、なんだなんだと顔を上げつつある。曇天の空から、ゴロゴロと遠雷の音が聞こえ始めた。雨はいよいよ本降りになってきて、露天を出していた商人たちはあわてて店じまいを始めた。  緑色の光は、城壁の全面に広がると、徐々に天辺へと集まっていく。それから大きな光がして、薄緑色の、半円状のドームが屋根のように国の上を広がり始めた。  雨が止んだ。城下町の人々は驚いて顔を上げた。まるで海の底で聞いているような、遠いところで雨が屋根を打つ音がする。  空が一瞬光って轟音がし、結界の上に落雷が落ちた。しかしその音は、まるでゼリーに包まれているような鈍い音で、はるか頭上の半円状のドームに、放射状に電撃が広がっただけである。  城下町の人々は顔を挙げ、やんややんやと喝采を始めた。これが前々から聞いていた、“緑”の魔術師の塔の国防結界魔法なのだ! 戦争が終わって100年以上もたち、当時の記憶も薄れつつあるが、万が一のときでも、この魔術があれば安心だろう。  遠い雨の音を聞きながら、執務室でジャンプして喜んでいるのは国王陛下である。 「武術大会!武術大会はじまるーーー!これで雨も平気―!!!」 「はいはい」  踊るように執務室を出て行った国王陛下を、側近が追いかけていった。  なお、“緑”の魔術師の塔に、『この前のアレ、毎年やって』とお触れが出るのはまた別の話。 <終>
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