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“緑の色彩”、モール所長が声を張り上げた。エルフである彼は長命であり、彫りの深い顔には長いひげを蓄えている。丸い眼鏡の奥にある緑の目は鋭く、彼を見て魔法使いだと思わない人間はいないだろう。
「先週王城にて、騎士団長と“色彩”魔術師を交えた会議が執り行われた。今回は、その内容について――」
「あ、ごめん、ちょっとトイレ」
隣のドワーフが席を立った。
「午後2時から会議だっていっただろうが」
モール所長がが舌打ちをした。
「5秒で済ませてくるから」
「逆に嫌だよ。ちゃんと手洗って来いよ」
見た目に反して、モール所長の口調はフランクである。
「みなさーん! モール所長のお土産ですよー」
入れ違いの用に扉が開いて、ダークエルフの男性が、トレーにケーキを乗せて入ってきた。フルーツケーキやチョコレートケーキ、宝石のようにきらきらと輝いているおいしそうなデザートが並んでいる。
「わぁ、すごーい!」
有翼人の魔術師が目を輝かせた。
「これって、今話題の、城下町の『ルブランのケーキ』じゃないですか!? 並ばないと買えないって噂なんですよ~」
「所長、そのナリでケーキ屋さん並んできたんですか」
ダークエルフは想像した。若い女性に混じってケーキ屋さんの列に並ぶ、老人魔術師(男)の姿を。
「文句あるなら喰うな」
モール所長が、自分の文のケーキとフォークを手にとって言った。
「いえ、すいません。いただきます」
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