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「大戦中の空爆や、魔族が攻め入った時の国境壁の対策。戦争を行う際の兵への防御魔法、装備への守護呪文付加など、我々の活動は必要不可欠なものであった。しかし今、戦争は終わって長らくの時間がたった。戦争のない、平和なこの世の中では、結界魔法が活躍する機会は無に等しい」
「所長、髭にクリームついてますよ」
妖精族の少女が横槍を入れた。
「え、マジで?」
モール所長が紙ナプキンで口をぬぐう。
「戦時中かぁ。やっぱり、我々“緑”の魔術師が活躍し、予算をぶんどるには、戦時中ですよねぇ」
ダークエルフが呟く。
「起こしちゃいましょうよ、戦争」
「やめろや」
即座に否定されてぶー、と口を尖らせたダークエルフの名前はニシュと言う。闇魔法や即死魔法に長ける彼は、本来“黒”の魔術師のはずだ。しかし、彼はとある時、彼の放った呪文が結界魔法に阻まれ、それ以来『緑の魔法』の修練を行っているのだという。
「戦争か。いいよねぇ、戦争。あの頃は予算がいっぱいあった」
不穏なことを口走るモール所長であるが、たぶんこれは彼なりのジョークであろう。ちなみに最後にこの国で戦争があったのは、120年ほど前のことである。
「さて、この国を取り囲む城壁だが。ご存知の通り、城壁の8箇所には結界魔法発動の宝珠が埋め込まれている」
モール所長が説明しながら茶をすすった。
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