112人が本棚に入れています
本棚に追加
「そっか、良かった」
俺がホッとしたところに、伊織が近づいてこちらの袖を引く。かがんでやると、頬にキスしてきた。
「今日もお疲れさま。眠る前に、朝ごはんしっかり食べてね」
そんなの、頼まれなくたって片端から平らげるつもりだ。
* * *
二人で朝食を済ませたあと、俺はシャワーで汗を流した。部屋に戻ってくると、伊織は俺のジャケットをハンガーに掛け、匂い取りのスプレーを吹き付けて、ブラシをかけていた。
「悪い、ほったらかしてた」
「ううん。手が空いたから」
伊織はいつも、手間を手間とも思わない様子で助けてくれる。あまりにさりげなくて、そのありがたみをうっかり忘れてしまいそうだ。
ずっとそばにいてほしいから、彼女の存在を当たり前だなんて思いたくない。
「助かるよ」
「どうしたしまして」
ジャケットの手入れを終えた伊織は、キッチンで水差しを用意し、ベランダに置いてある鉢を潤わせていく。
俺が一人暮らしをしていたころにはなかった生活感が、彼女が来たことで、いつの間にか根付いていた。
最初のコメントを投稿しよう!