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伊織が俺のそばにいてくれる奇跡を、どうすれば伝えられるのだろう? 満たされた心が暖色に染まっている事実を、うまく言葉にできればいいのに。
「俺にとっては、伊織の与えてくれるひとつひとつに意味があるんだ」
「涼くん……」
「ほかのやつじゃ、ダメなんだ」
まっすぐ見つめると、伊織は困ったように視線を逸らした。横顔を向けたまま、無理に笑みを浮かべてみせる。
「えっと……そうだね。膝枕の柔らかさには自信があるかも。こういうときだけは、太ってて良かったなって思う」
俺は素早く上半身を起こした。
逃げようとする伊織の手首をつかむ。俺が怒った顔をしていることに、彼女は怖気づいた。
「何回も言ったよな? ふっくらしてるのと太ってるのは違うって」
「……どっちにしても、痩せてはいないよね」
「細いの、俺は好きじゃないし」
「涼くん、変わってる」
「同意見のやつ、けっこういるけどな」
「やっぱり……釣り合いっていうものがあるでしょ」
拒絶されたようでショックだった。
「一緒に暮らして何ヶ月もたってるのに、まだ安心できないのか?」
「だって、私のせいで涼くんが笑われたら……辛いから」
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