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「初めて話した日も、膝枕してくれたよな? やさしく頭を撫でてくれた。お前には、ささいな出来事かもしれない。でも俺は、そんなぬくもりから長いこと遠ざかっていた。だから、どうして感情があふれるのか分からなかった。お前が目元をさりげなく隠してくれて……俺は自分が可哀想だってことに気付いてしまったんだ」
伊織がこちらを見上げる。俺も彼女を見つめ返した。
「もし、一緒にいるところを誰かが笑ったら、俺はそいつを哀れだと思う。見てるつもりでなにも見えていない。そいつは、抜け殻のようなかつての俺だ」
「涼くん……」
「それを過去にしてくれたのはお前だよ」
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