後編

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 伊織が感情をこらえるように目を細めた。俺は、相手の頬をそっと撫でる。 「お前は大人しくて控えめだもんな。不釣合いなのは俺だ。髪を黒くして派手な格好をやめても、真面目で誠実な男には程遠くてさ。ほんと情けない」 「そんなことないよ。涼くんはすごく努力してる」  俺は彼女に笑いかけた。 「伊織がそう思ってくれるだけで充分だ。見かけで判断するやつに、俺たちのなにが分かる。そんな人間の言葉に、耳を傾ける価値なんてない」 「……うん」  伊織が潤んだ瞳でうなずいた。肩までのサラサラな髪の毛に、俺は指を絡める。 「お前は、俺にはもったいない」 「そんな……」 「俺より幸せにしてやれるやつがいるんじゃないか、って思う」  伊織が懸命にかぶりを振る。いつも彼女は、俺を否定しない。 「でも俺は、伊織を望んでしまった。こうしてお前のやさしさを独り占めしてる」  俺は相手を抱き寄せた。伊織が大人しく身を任せる。俺は安らぎに包まれる。 「伊織の選択肢を狭めたのかもしれない。けれど、もうお前といない自分を想像することができないんだ。わがままだと思う。それでも……」
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