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息子に名前は無い。政府が欲しがるのは、軍のお偉い人が欲しいのは、可愛らしい名前ではなく、珍しい名前でもない。
銃を撃ち、敵を殺すための指。仲間の死体を踏み越えて行くための足。若さという力。動くためのエネルギー。
それらを備えていれば、きっと人間でなくても良かった。醜くても。手足が何本生えていようとも。
サキ、という名の少年はずっと握っていた私の手を離し、軍服を着た知らない男の手を握った。その瞬間に、サキ、という名前は私の右手に残された。彼は名前を置いて、名前の無い何者かに変わり果てた。
夫の遺伝子を継いでしまったな。数年前に名前の無い何者かに変わり、それから一度も私のところに帰って来てくれない、彼と同じ運命を辿るのだろうか。
サキも私の知らない所で、知らない何者かになってしまうのね。
否、貴方は私達の大切な愛息子。
私の手を離した時、私を心配させまいと無理矢理笑った顔がとても可愛かった。
数年前の夫が見せた笑顔と良く似ていて……。
ああ、本当に夫の遺伝子を継いだわね。だから余計に、悲しくなってしまって。
私を一人にしないで。
どうか。
醜い姿になってもいい。
手足が何本生えてもいい。
名前が無くても、私は貴方を覚えているから。
私の元に帰って来てほしいの。
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