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僕の隣には、パパとママがいた。
右手にはパパ。
左手にはママ。
手を繋いで。
日溜りの中を三人で歩いた。どこかの商店街だった。店の人が客寄せの文句を叫んでいるように見えたが、何も聞こえない。口だけが魚のように可愛らしくパクパクと動いていた。
これは夢だな、と思った。
何も感じなかった。
商店街の雑踏が鳴らす砂利の音も、衣摺れの音も何も聞こえなかった。その日はとても寒くて、身体を荒く削るように冷たく風が吹いたことも、どこかで誰かがくしゃみをしたことも、僕には分からなかった。
僕の周りはとても静かで。汚れた液体の上澄みみたいな静けさ。
パパ。
右上を向いて呼んだ。
パパが僕の名前を呼んで頭を撫でた。たったそれだけなのに、どうしてか楽しい気分になって、思わずスキップをしてしまった。
次に左上を向いてママ、と呼ぶ。もうその頃にはすっかり気分が高ぶっていて、ママがなんて返したかも覚えていない。でも、また嬉しい気持ちになったことだけは覚えている。
どうして手を繋ぐのか、ふと我に返ってそんなことを考えた。
でも、考えたのはもう何年も前のこと。これは記憶。だから、考えずとも既に結論は出ていた。両親の手を握り、商店街を歩く小さな僕はこう結論づけた。
それは生きるため。
パパとママと手を繋いでいると、元気が湧いてくる。それはまるで天井からぶら下がった電球のようなもの。僕達は手を繋ぐことで、生きるためのエネルギーを分け合っているのだ。
馬鹿らしくて、可愛らしいな。
僕はフッと笑った。いつの間にか視点は第三者に変わり、遠くからその三人家族を眺めていた。
気付けば雨が降っていた。辺りを見回すと商店街の人々は皆傘をさしていて、さっきまでの喧騒が嘘のように、淋しくて泣いているような顔で立っていた。
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