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早朝の大通りには細くて鋭い、矢のような風が吹いていた。どしり、と大通りに重く鎮座した冷気は硬いコンクリートのように、快晴の空からの太陽光すらも跳ね返すかのようだった。 そこを通る戦死者の行列は何かの儀式のようにも見えた。ボロい担架に乗せられた死体は皆、瞼を閉じて安らかに眠っていた。 白粉を塗ったかのような白い顔で、ピクリとも動かないそれは、人形のように見えた。死体を運ぶ兵士の顔もまた白く無表情で、それがさらにこの行列の異世界じみた異様さに拍車をかけた。 この冷気は、あるいはこの死体から吹き出したものかもしれない。 大通りには大勢の子供と女性の見物人がいた。 ある者は両手を合わせて祈る。それは、ここに帰って来ないで欲しいという願いなのか、死んだのなら死体だけでも帰って来てくれという願いなのかは、私には分からない。 私はただ、何もせずじっとその儀式行列を眺めた。何を想うわけでもなく、真夜中に時計の秒針の音を聴くように、ずっと行列が踏む砂利の音を聴いた。 漂う腐臭に顔を歪めることも冷気に震えることもなかった。 それは、大通りにいた他の全員も同じで、もはやそんなことに充てる神経など残していなかった。 彼女達もまた、コンクリートであった。 やがて死体は各出生の家の前に置かれていった。 信じられないという現実逃避による沈黙か。 あるいはもう一度我が子、我が夫の姿を見ることができたという感動か。 お疲れさまと優しく労っていたのか。 初めは誰も何も言わなかったが、やがて誰かが声を上げて泣いた。 大通りの入り口に近い家族から順番に声を上げた。 脆いコンクリートはポロポロと瓦解を始める。 「これは私の子供じゃない!タロウはもっと綺麗な顔をしているの!こんな化物!!私の子じゃないわ!!!!」 顔が火傷で爛れた死体を見て誰かが叫ぶ。 「おい、奥さん!大丈夫か!?」 誰かが我が子の死体を見て毒を飲んだ。血を吐きながら嬉しそうに子供の頬を撫でた。 「あぁ、タクヤ、タクヤ…タクヤタクヤタクヤタクヤタクヤ……」 あぁ、もうあの人は駄目だなと思った時に、その母親は真っ赤な血を大空に向かって大量に吐き出して、ふにゃりと倒れた。 真っ赤で透き通った、赤いステンドグラスみたいな薄い血だった。なのに強く燃え上がるように躍動していて、あれが彼女の命なんだと思った。
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