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「で、その手紙は読まなくて良いのか」
「寮に帰ってから読むよ」
蓮と一緒に居られる間は、蓮だけを見ていたい。蓮のことだけを、思いたい。
雨花が手紙を大事そうに、鞄のポケットに仕舞い込むのを、蓮はじっと見つめていた。
「好きな子からの手紙?」
小さな声で、聞かれた。
雨花は思わず、ビクッと、手を止める。
夕日の差し込む廊下。
誰も居ない静かな放課後。
――蓮は、彼のことも、雨花の過去も知らない――。
「……好きだった子からの手紙……」
雨花は、少し切なそうに微笑んで、蓮を見た。
『雨花が答えるなんて、思わなかった』と、蓮の瞳が言っている。
確かに、いつもなら言わない。こんな、危険なこと。だけれども、蓮にも知っていて欲しかった。自分にも、人を好きになることが有るのだと。
少しくらいは、知っていて欲しかった。
「オレにだって、好きな子ぐらい」
そこまで言わなくてもよかったと、後悔し始めた声は、どんどん小さくなって行く。
「そうだよな」
そう返してくれる蓮の声も、少しぎこちない。
(やっぱり、失敗した)
鼓動が嫌な音を立てている。
これだから重くなり過ぎた想いは、コントロールが効かなくて性質が悪い。
「蓮くんやっと居たぁ。天文部終わった? 部室行っても居ないから探したよ」
言わずと知れた、松林の声が廊下に響き渡った。
「潮。先に帰ってろって言っただろ」
蓮は陸上部の練習が終わった後に、天文部の部室にも顔を出していたらしい。
雨花は、万が一にも、蓮が自分を待っていたなどと、思いつきもしない。
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