花月想《かげつそう》

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「槻弓さ、うちの部に入らないか」  とうとつな茶谷寺の申し出に、雨花が再び面くらう。 「え? あぁ、えっと?」 「十六夜(いざよい)?」 「や、躊躇ってはいないけど」  入部よりも、茶谷寺の存在に躊躇っているだけで。などと、本人には面と向かって言え無い言葉を、こくっと飲み込んだ。 「やっぱり」  そう言って、鮮やかに笑う茶谷寺に、言葉が出てこない。 「十六夜って言って、ナチュラルに話の通じる奴なんて、そう居ないぞ」  唖然としているだけの雨花に向かって、茶谷寺は楽しそうに笑っている。 「俺ら、趣味合うかもな」  茶谷寺が部室のドアを、まるでエスコートするかのように開く。 「部長。新入部員です」  雨花が返事をする前に、彼が周りに宣言してしまった。 「ち、ちょっ、茶谷寺っ」 「何? 問題でもあった?」  悪気無く、さわやかな笑顔を向けられ、雨花は何も言えない。仕方なく首を横に振り、入部に同意する。  俯きながら、「宜しくお願いします」と呟いた雨花の周りで、数人の男女生徒が沸きあがる。気さくな部員達は口々に、「噂のクールビューティーが来た」と騒ぎ、勧誘に成功した茶谷寺を褒め称え、そんな賞賛の嵐を彼は、にこやかに受け止めていた。 「一年、俺だけだったんだ。槻弓が入部してくれて良かったよ」 「そう」  素っ気無いにも程がある言葉を返しながら、雨花は考える。 (どうして、茶谷寺はオレなんかを誘ったんだろう)  クラスでも、早速浮いた存在になっている事は自覚している。  本来ならば、茶谷寺と同じくらい騒がれてもおかしく無い容姿を、雨花は持っていた。 それこそ、〝イケメン〟の類なのだ。
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