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「この間まで一緒に内部で行くって言ってたのに、一人だけ学外に行くとか言うからだろ。その上、説得に応じなかったろ」
「う」
まるで見ていたかのような蓮の言葉に、雨花は何も言え無くなる。
「柔らかい雰囲気のクセに、ホントに頑固だよな。雨花って」
そう言って、笑い飛ばされる。
(コイツ。兄さんと同じことを)
ついつい握った拳の中で、開きかけていた手紙が悲鳴を上げた。
「何、手紙? ……ご両親から……」
深く突っ込み過ぎないように、気を使ってくれているのが分かる。
『何も話してくれない』
『踏み込まれたくないこともある』
雨花の蓮への想いは、一種の壁となって、蓮さえも遠ざけていたのだろう。
自分を守ることばかりに一生懸命で、大切な人が、心配して気に掛けてくれていることに、気付いていなかった。
(オレは強くないよ。兄さん)
拳を開き、掌の手紙を見つめる。
そこには、苦い過去の一部が在る。
「これは、地元の……友人から。オレ、両親に勘当されて、ここに出て来てるから」
「勘当? なんで。あっ」
「なんで」と言った蓮が、思いっきり、シマッタと瞳で表した。
雨花は何でも無いことのように微笑んで、蓮の罪悪感を解いてやる。
「まぁ、オレのせいなんだよ。なんて言っても、オレ、頑固者だしな」
「雨花、俺、真剣に聞いてんだけど」
笑って答える雨花に、誤魔化されていると思ったのだろう蓮が、剣呑な目つきになる。
「オレだって真剣に答えてるって。結局、オレが心曲げずに、自分を通したから、両親はオレを見切った。それだけ」
“それだけ”でも無いのだが、言っていることは間違っていない。ただ、要約されすぎているだけで。
ふと、明るい笑顔の兄を思い出す。
「兄さんとは、仲直り出来て良かった」
独り言のように呟くと、フゥと、小さな溜息が聞こえてきた。
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