花月想《かげつそう》

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 ルーズに跳ねた少し長めの髪も、何時も憂いを帯びているような目元も、低くは無い身長も。本当に華やかな容姿をしているのに、自分の万人に受け入れられない性癖が、相手との違和感や距離を生み、声を掛けられても、すぐには反応が出来ず、ついつい言葉数が減ってしまう。その為に、表では“クールビューティー”と言われ、裏では「冷たくて根暗」と、陰口を叩かれる結果となった。  そんな自分に、何故、住む世界が違うと言っても良い茶谷寺が、声を掛けて来たのかが、雨花には分からない。  雨花を混乱させる茶谷寺に、部員とされてしまった天文部は、本日、ミーティングだけだというので、自己紹介が終わると、早々に部は解散となった。  吹奏楽部や合唱部の音楽が流れてくる放課後の特別教室棟を、聞きたい事も聞けずに、茶谷寺と並んで歩いていていると、向かいから、体操着を着た女生徒が走って来る。 「もうっ、蓮くんたら、まだ、こんな所に居たっ」 (松林さん、だっけ)  緩いウェーブの長い髪を、後で一つに括り、大きな瞳が印象的な女の子だった。  雨花が異性に興味が持てる人種なら、確実に周囲の恋愛ゲーム騒ぎの一員になっていただろう。彼女も、自分の容姿には自信が有るのか、気に入った男子生徒には、甘えた声をかけまくっている。 (そういや、オレも、最初の頃はよく声掛けられたっけ)  冷めたように雨花の思考は進む。  今、立てられている噂の根源は、彼女が大元だと雨花は知っていた。  興味が無いどころか、女性には必要以上に近づきたくない雨花にとって、科を作って寄ってこられても、「気持ち悪いので、ごめんなさい」と言うしかなかった。しかし、自分の事を暴露してしまう訳にもいかず、半分無視のように、微笑んでいたら、陰口を叩かれてしまったと、いうことだ。 「ワルイ。今から向かうところだった」 「ホントは今日、天文部出る日じゃ無いでしょ。担任に頼まれたんだ」  言いながら彼女は、話の内容が見えず、黙って茶谷寺の横に居た雨花に、チラリと視線を向けてきた。僅かな嫉妬と、独占欲。そして、優越感の含まれた瞳。  雨花の肩が、僅かにビクリと跳ねた。
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