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こんな感覚を知っている。
雨花の中に苦い思い出が広がって行く。
中学三年の受験シーズン真っ只中の頃だ。
雨花には、二年の頃から密かに思いを寄せていた男がいた。彼とは友人同士でクラスメート。とっくに自分の性癖を受け入れていた雨花は、彼と友人として話をし、毎日会っているだけで良かった。
そして卒業も近づき、受験生だからと、別れの時に耐えられるように、彼との距離を少しずつ取り始めた頃、クラスの女生徒から中庭へ呼ばれ、告白を受けた。
彼女は、雨花が断るなんて思っていなかったらしい。確かに、あの頃は、今ほど女性拒否症も酷くなく、友人程度の付き合いは出来ていたのだから。
「お互い勉強に集中した方が、良いと思うんだけど」
雨花の説得も聞かず、激しく泣くばかりの相手に困惑していると、そこへ、思い人が通りがかった。
気まずさと、恋しさで、雨花の体に、痛いほどの鼓動が打ち付けていた。顔も見られず俯いていた自分の耳に、とんでもない言葉が入って来る。
「そう! やっぱり、雨花くんは、男子の方が好きなんだっ」
反射的に振り向いた彼女の顔は、醜く歪んでいて、薄い笑みを刷いている。ゾッとする思いで、彼女を見遣り、そして、恐れながら、雨花は彼を見た……。
彼は引きつった笑顔を一瞬、雨花に見せたものの、サッと視線を逸らし。
「ごめん。もう、雨花と、友達でいたく無い」
そう言い残して、去って行ってしまう。
雨花はその背中を追うことも出来ずに、呆然と立ち尽くしていた。
「当然よね。いい気味」
そんな言葉が、意識の遠くで聞こえる。
あんまりな出来事に、雨花はその日、早退したが、次の日学校に行くと、もっと酷い事になっていた。彼女が、ふられた腹いせとして、雨花の嗜好を、皆に暴露するという暴挙に出ていのだ。
当然、クラスメートからは「気持ち悪い」だの「汚い」だのと攻撃され、受験のストレスも相まって、それは酷くなる一方だった。
雨花の様子がおかしい事に、大人達が気付き、暴力は減ったものの、無視という無言の暴力は卒業まで続いた。
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