花月想《かげつそう》

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 それまでの間に、雨花は親にまで性癖を知られ、何度も家族会議が開かれた。 「母さん父さんには悪いけど、どうやっても女の子を好きにはなれないし、今回の事で、もぅ、近づくのも嫌なんだよ。オレは」  こう言い続けた雨花を、両親は持て余し、最後は勘当同然に、寮のある高校への進路変更を命じられた。勿論、男子校を希望する雨花に、最悪な言葉が投げつけられる。 「男子校なんて行って、万が一、間違いなんて起こされたら目も当てられんわっ!」  怒り任せに叫ばれた、父親の声が遠く離れた今でも、繰り返し甦る。  雨花は、急な進路変更にも焦らず、余裕で合格して見せ、入寮も決まった。  出発の前夜、父親は雨花の顔も見ずに、大学までは行かせてやるから、宗旨変えしない限り、二度とこの家に戻って来るなと言った。その横で母親はいつまでも泣いていたが、父親の言葉を止めることは無かった。  結局、雨花の旅立ちに見送りに来たのは、兄ただ一人で、その兄も、ぎこちなく微笑んでいるだけだった。  今、目の前にいる松林が、どうしても、中学時代の女生徒と重なって仕方が無い。  苦い思いに唇を噛んでいると、松林が茶谷寺の手を取るのが見えた。 「蓮くん忙しいのに、槻弓くんの面倒まで押し付けられるなんて、ツイてないね」 「松林」  咎めるような低さの茶谷寺の声に、松林は「潮(うしお)だってば」と明るく返しながら、軽く首を捻った。 「でも本当の事でしょ? ほら、早くしないと陸上部も終わっちゃう」  何と無く、雨花にも状況が飲み込めてきた。  茶谷寺は、活動の少ない天文部だけでなく、陸上部にも所属していて、そこには松林も在籍している。今日は天文部の短いミーティングの後、練習に顔を出すはずだったのが、雨花を紹介している間に遅くなってしまった。  そして、強引なほどの勢いで、天文部に入れたのは、毎日、寮則でバイトも出来ずに、寮と学校を往復し、クラスでも浮いた存在になってしまった雨花を担任が心配して、面倒見も良く、人望厚い茶谷寺に任せたからだ。 (そういうコトか)  雨花は、茶谷寺が自分に近づいて来た理由に納得した。  クスリと笑った雨花に、茶谷寺が不思議そうな顔をしている。
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