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(01.)
心臓が痛い、いや、胸が痛い。
その原因はわかっている。
「豊花ってば、どうしたの? いきなり……顔色悪いよ?」
横に並んで歩く幼馴染みーー赤羽裕璃が、突拍子もなく衝撃的な言葉を口にしたせいだ。
そのせいで、僕は暫し呆然となってしまった。現実を受け入れまいと脳が頑張ったのか、なにを言ったか理解しつつ、それがいったいどのような意味か、認識するまで時間がかかってしまっただけだ。
「もう、豊花ってば、聞いていなかったんでしょ? 実は私、彼氏出来ちゃいました~、わーわー、パチパチ!」
秋だというのに、まだまだ夏が残っているのだろうか? やたらと汗を掻いてしまう。いや、9月の上旬は、まだ夏か。
そんな暑さを気にも留めず、裕璃は喜びをアピールしたいらしい。わざとらしく拍手までする。
「あ、そ、そうなんだ。へぇ……」
「なんか元気ないなー? 大丈夫、豊花にもいつか彼女できるって! 頑張んなさい!」
強く、背中を叩かれた。
違うよ、裕璃。
僕は、ずっと君のことが、好きだったんだ。
それなのに……裕璃からすると、僕は単なる幼馴染みなだけだったことがショックなんだ。
いつか、裕璃と付き合うーーそうなるものだと、僕はずっと、思い違いをしていた。
「早く歩かないと遅刻しちゃうよ? さあさ、歩いた歩いた!」
「う、うん」
悲哀が溜まり暗くなってきた感情を、無理やり押し退けて考えないようにする。
いくら嘆いたって、彼女にはもう、恋人がいる。そして、僕以外と付き合うということは、そもそもの話、裕璃は、僕を男として見ていなかったのだろう。
今さら告白しようにも、時既に遅し。それ以前に告白したとしても、おそらく振られた。
そうだ。そうに決まっている。と頑なに信じ、裕璃について考えないようにする。
下らない、何時もしている雑談をしながら、僕たちは高校へと向かった。
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