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隣人の歯ぎしり
また、はじまった。隣の奴の歯ぎしりが。
俺はあの日の上司の恐怖する顔を思い出し、首元の皮膚をかきむしる。そして、命を乞う情けない悲鳴を。
爪と皮膚の隙間には、血が滲むかさぶた。それを見つめていると、脳内にこびりついた上司の顔がシホの顔に入れ替わる。顔一面を涙で濡らす彼女。命を乞う甲高い悲鳴。耳鳴りのように脳に突き刺さった。
夜になると隣人の歯ぎしりが、ギシギシと響いてくる。みんなが寝静まった頃を見計らうかのように、一定のリズムでその歯ぎしりは毎夜軋みはじめる。
──何をそんなに力むことがあるんだ? 生きる意味もないこの世界で?
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