カウントダウン

3/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 僕は、両親(あなた)たちよりも先に、死んでしまうんだ。  予備校で、一人の女性と出会った。僕と同じ、中学から引きこもっていた、ひとつ年上の女性。  最初は、ただ挨拶を交わすだけの間柄だった。  それが一緒に勉強をするようになって、互いの過去を打ち明け、いつしか惹かれていた。  彼女は、父親を知らなかった。  母親の実家で育った彼女は、学費を稼ぐ為にアルバイトをしながら大検合格を目指していた。  彼女は、優しかった。  予備校が午前と午後にまたがる日は、忙しい中で弁当を作ってきてくれた。玉子焼きの味付けがちょうど良かった。  残り時間、九年。僕は、初めて幸せを実感していた。  彼女と一緒に、国立の大学に合格出来た。高校をすっ飛ばして、晴れて大学生。  彼女の母親、僕の両親、それぞれに(ゆる)しをもらい、二人でアパートを借りた。  大学も、バイト先も、家でも一緒だった。  残り時間は、あと八年を切っていた。  就職が決まった。  小さな会社だけど、彼女の就職先とも近かった。  就職祝いを、彼女の実家と僕の両親に貰った。  お揃いの腕時計。銀の、丸い、革ベルトの時計。  彼女も僕も、笑顔だった。  残り時間は、あと五年半。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!