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僕は、両親たちよりも先に、死んでしまうんだ。
予備校で、一人の女性と出会った。僕と同じ、中学から引きこもっていた、ひとつ年上の女性。
最初は、ただ挨拶を交わすだけの間柄だった。
それが一緒に勉強をするようになって、互いの過去を打ち明け、いつしか惹かれていた。
彼女は、父親を知らなかった。
母親の実家で育った彼女は、学費を稼ぐ為にアルバイトをしながら大検合格を目指していた。
彼女は、優しかった。
予備校が午前と午後にまたがる日は、忙しい中で弁当を作ってきてくれた。玉子焼きの味付けがちょうど良かった。
残り時間、九年。僕は、初めて幸せを実感していた。
彼女と一緒に、国立の大学に合格出来た。高校をすっ飛ばして、晴れて大学生。
彼女の母親、僕の両親、それぞれに赦しをもらい、二人でアパートを借りた。
大学も、バイト先も、家でも一緒だった。
残り時間は、あと八年を切っていた。
就職が決まった。
小さな会社だけど、彼女の就職先とも近かった。
就職祝いを、彼女の実家と僕の両親に貰った。
お揃いの腕時計。銀の、丸い、革ベルトの時計。
彼女も僕も、笑顔だった。
残り時間は、あと五年半。
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