ババネコ回顧録

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 今私はリビングの日当たりのいい場所にフカフカのお布団を置いてもらって寝ている。昼間はみんな仕事や学校に行っていて家の中は静かだ。ただ一人、「久実おばあちゃん」と呼ばれている、私よりも老いさらばえているおばあさんがルームメートだ。久実おばあちゃんはただベットに寝ているだけで何も喋らない。ご飯はお腹にチューブが刺してあって、そこから液体を流し込んでいる。トイレも行かない。"オムツ"をしている。  毎日、24時間、ただ天井を見詰めている。  久実おばあちゃんは、私がこの家に来た頃はそれは良く働いていた。朝早く起きてごはんを作り、みんなが出掛けたら畑に行って野菜の手入れや草取りをしていた。私もよく一緒に付いて行った。  近所の人たちに「付いて歩くなんて利口な猫だなぁ」とよく言われた。そりゃ100回も猫やっていれば人間にもなつく。  思えばこの家に来てからずっと久実おばあちゃんと一緒だった。夜寝る時、他の家族はギューって強く抱くし寝相も悪くてしばしば私は布団から追い出された。そんな時私は久実おばあちゃんの布団に潜り込む。久実おばあちゃんは抱き締めたりはせず、腕枕をしてくれる。寝相もいいしイビキもかかない。久実おばあちゃんと一緒に寝る時が一番気持ちよく眠れた。  久実おばあちゃんは何を考えているのだろうか、それとももう考える事は終わってしまったのだろうか。  私は考えている。周りから見れば年老いて寝ているだけの老猫にしか見えないだろう。でも頭の中は夢と希望で一杯なのだ。   100回生きたら人間にしてくれると神様が約束してくれたから。  あれはちょうど50回目の時だった。     
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