街娘シルビア

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焼野原には、子供が立っていた。 髪や顔に血がこびりつき、子供自身の血か、 他の誰かの血か区別もつかぬ。 そこは、村だったのか。 モクモクと煙を上げ、まだ火が燻っているようだ。 生々しい惨劇に子供は、息をのむ。 無数に転がる人の遺体の山。 開け放たれたドアから室内には、遺体が散乱し、 剣に貫かれ絶命した者も見える。 子供とそう歳の変わらぬ娘は、犯されてから殺されたのか、 服を裂かれ、下肢はドレスに隠れているものの、むき出しの乳房が露わになっている。 そばには赤ん坊がいた。 抱き上げると赤子は、乳を捜す素振りを見せる。 「!」 次の瞬間。 人の気配に気づくと赤子を隠し、 自身も木に身を潜めた。 様子を伺っていると男がやってくる。 子供と同じくボロボロの衣服を身に纏い、足を引きずっており、 手には何やら下げているのが見えた。 一人敵か味方か・・・。 「手をあげろ!」 ドスを効かせた低い声で告げると男は、ひぃっと言って手をあげた。 音を立てて転がったのはバケツだ。 男は、命乞いをした。 「たっ、助けてくれ! おらぁディーノのブリストルだ・・・。 お、おっかぁに水を飲ませてぇ・・・。 その後は、焼くなり煮るなりしていいから、 い、今は見逃してくれ・・・。頼む!!」 男の言葉に危害を加えそうにないと判断し、 よし行けと言うと男は、手をあげたまま恐る恐る振り返った。 「・・・・・・」 ざぁっと風が子供と男の間を吹き抜け、 マントのフードが落ち、男は子供を見てわなわな震え始めた。 「そ、そんな・・・まさか・・・」 風になびいているのは、神々しいばかりの金髪。 己の姿をとらえている深い蒼の瞳・・・。 子供が怪訝な顔をすると男の瞳には、 みるみるうちに涙がたまり男は、突如子供の身体を抱きしめた。 「シルビア・・・。シルビア、お前・・・どうして・・・生きてたのか・・・」 「な、なんだ・・・!?」 「シルビア・・・。シルビア・・・」 ひとしきり顔をくしゃくしゃにし咽び泣く男の言葉から、 戦禍で亡くした娘と知った。
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