街娘シルビア

4/9
前へ
/19ページ
次へ
「おぉ、ゲオルク大尉か」 入ってきた男は、軍服の肩にまだ雪を乗せ、 艶のある黒髪に紫暗の瞳だった。 「来客中でしたか」 「かまわん。その娘は、客などではない」 「と申されますと…」 「例の宿屋の娘だ」 「この娘が?」 娘の気品にゲオルクもまた驚く。 「なにかわかったかね?」 「コルレオーネという女、どうやらマフィアの下っ端だったようです」 「なに」 「下っ端だったのは、20年以上前です。組織を裏切ったがため、 今も追われ、昔の仲間に見つけられたようです」 「ネロとの接点は?」 「今、現在調査中です」 「よろしい、わかった。調査を続けたまえ」 事務的に話を切り上げたマクラーレンからシルビアに視線が移った。 「司令官」 「なにかね」 「この娘は、どうなさるのですか?」 「牢にぶち込んでおけ。まだ容疑が晴れたわけではない」 向き合ったゲオルクが娘に手を伸ばすと、ぴしゃりと跳ね除けられた。 「触らないで」 「何もしない。牢まで同行しようとしただけだ」 「……」 「これはこれは、気の強いお嬢ちゃんだ。後は、任せたぞ」 「…Yes, My Lord」 先に司令官の部屋を出たシルビアに続き、 ゲオルクは、彼女の後に続いた。 見事なウェーブがかった金の髪に、窓から差し込んだ月の光りが降り注ぐ。 その後ろ姿は、さながら女神ダイアナのようだ。 「ゲオルク大尉、だったわね?」 突然彼女が振り返った。 「あ、あぁ…」 「同行して下さらなくて結構よ。一人で牢まで行くわ」 「そうはいかん。君を牢まで連れて行くのも仕事の内だ」 「…仕事熱心で結構ね」 シルビアの皮肉に気づかず、ゲオルクは彼女に尋ねる。 「牢は、寒くないか」 「寒いわよ」 「では何か持って行かせよう。君は、女性なのだから」 「………」 ゲオルクの言葉にシルビアは、立ち止まり、彼の足は彼女を追い越した。 まじまじと目の前の男を見つめている。 「……なんだ。何を見ている」 「驚いたのよ。ずいぶん優しいのね」 「優しい?」 ゲオルクは、きょとんとした。 顔に笑みを浮かべたままシルビアは、続けた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加