街娘シルビア

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「大尉は、ディーノに赴任してきたばかり?」 「それがどうした」 「やっぱりね」 シルビアは、ふふっと笑って声を落とした。 「ここの軍は、街の人を虐げている。あなたみたいな軍人は、珍しいわ」 キスするかのような至近距離で男の胸に手を当てると、 彼女は、背伸びして耳元で囁くように言った。 「……そのようだな」 低い艶のある声で返され、シルビアは目を見開く。 「知ってたの?」 「あぁ、他にも知ってることはある」 「な、なに? ちょっと触らないでよ」 離れようとするとゲオルクに腰を抱かれ、 シルビアは、怪訝な目で彼を見つめ返した。 逆光で彼の表情は、わからない。 ゲオルクの体に覆われ、シルビアの体は、 すっぽりと隠れてしまっている。 「……君の名は」 唇は、勝手に動き娘は、戸惑いつつ名乗る。 「シルビア…」 「ではシルビア、私からも一つ言っておこう」 「?」 「君は、怪我をしているな」 「え? あぁ、軍に連行されるときに暴れたから」 「…そうか。後で軍医を牢に向かわせる。部下がすまなかったな」 「………」 例え容疑がかかっただけの者であっても、 すでに容疑者扱いの軍人が多くのさばる中で、 ゲオルクのような軍人もいるのだ。 シルビアを元のいた牢まで同行し、送るとゲオルクは、 部下に命じ、すぐにマルコ軍曹が防寒具を持ってきた。 「ありがとう。軍曹」 「本当は、我々が使う物なんだぞ。静かにしてくれよ?」 「まあ、そうなの?」 「あぁ大尉は、人格者であらせられるから特例だ」 「…そう」 やがて夜は、さらに深まり琥珀の月が高く昇った。 ひたひたと一頭の黒豹が男の元へ寄り、 美女へと姿を変え、恭しく膝まづく。 「…ネロ様」 「シルビアが軍に連行された。エリーゼは、どうした」 「ご無事です」 「そうか。ブリストルがディーノに帰ってくるのは、まだ先だ。 ゲオルク大尉の動きに用心しろと伝えてくれ」 「Yes,your highness」
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