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陸続きの南にあるディーノは、東にテスタロッサ、
西にボルボ、北にスピカそして背後は海。
国境に築かれた城壁が長くディーノと民を守ってきた。
その均衡が破られたのが10年前。
テスタロッサは、王政を壊し、時の王は、一族もろとも殺され、
軍司令部及び宿舎は、古城を陣取った。
かつて他国からの防衛の城塞だったそこは、堀に囲まれ、
跳ね橋を渡らなければどこにも行けない。
シルビアがいるのは、ベルクフリートという主塔。
一階と地下が繋がり彼女は、一階の牢にいた。
一階は、まだいい方だ。
土牢となっている地下には窓も扉もない。
光と空気は、上層からしか入ってないので基本的に囚人は、暗闇の中。
死ぬまで鎖に繋がれ、長い時を生き続けなければならない。
衛生面が悪く排泄物が積み上がり、蛇、蛙、毒虫などがうようよ。
1日の食事は、ひとかけらのパンと一杯の水のみ。
発狂し死んでゆく者もいるという。
手首の拘束が縄なのは、ゲオルクの人格によるものか…。
聞こえてくる会話から門番が交代したようだ。
雪で視界が悪く盗賊と老婆の追跡も、一時撤退になったらしい。
カツカツと見張りが靴音をさせ、牢の前を行きすぎる。
軍曹のくれた防寒具に包まっていると見張りの兵士が、
シルビアの牢の前で止まり、声をかけてきた。
「女…その防寒具は、どうした?」
「…マルコ軍曹がくれました…」
「なにぃ? 軍曹が? そんなはずがあるか。貸せ」
「!」
「よこせと言っている…」
「あの、でも…」
ちっと舌打ちし兵士は、シルビアの牢を鍵で開け中に入ってくる。
どうしよう…。
酒場の酔った客相手なら痛めない程度に、
腕を捻ることもわけないけど目の前にいるのは軍人で。
自分だけではなく一家が怪しまれているというのに…。
カタカタと震え、動けないでいると灯が顔に掲げられ、
舐めるような視線を浴びた後、兵士は美しいな…と感嘆の声を上げ、
くいとシルビアの顎を上げてきた。
「……寒いのか」
「はい…」
「なら俺が暖めてやるというのは、どうだ?」
「暖める…?」
男の手がシルビアのリビエラドレスに手を伸ばそうとした時。
「何をしている」
「!」
鋭く威圧する声がした。
声の方を見るとロウソクを片手に男が立っている。
軍服は、下級兵士ではないカラー。
黒髪に紫暗の瞳…ゲオルク大尉だった。
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