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「こ、これは…ゲオルク大尉…」
「何をしているのかと聞いている」
兵士は、あわあわと狼狽え上官に何も答えられない。
牢から逃げようとし次の瞬間、銃声と短い呻き声がした。
「貴様のような部下は、いらん」
「大尉。何事でありますか!」
「見張りが牢の鍵を開けた」
「なんと! 中の者は…」
「逃げてはいない。それ(遺体)を片付けておけ」
「はっ!」
銃声に駆けつけた部下に命じるとゲオルクは、シルビアの牢に入ってきた。
その後ろを撃たれた男の遺体がズルズルと引きずられ、血の道が作られていく。
思わず後ずさると無表情で見つめてくる。
近づいて触れようとする手にビクッと構えてしまった。
伸ばされた手が止まった。
「大丈夫か?」
片膝をつき、視線を合わせてくる。
「… あ、ありがとうございました…」
助けてくれた?
礼を言うと声に怒りをにじませた言葉が返ってきた。
「礼はいらん。…私の監督不行届だ。全く部下の躾がなっとらんな」
ため息をつきながら小さな低い声が名を呼んだ。
「シルビア」
「はい」
「なぜ抵抗しなかった?」
「なぜって…怖かったので…」
「…そうか。今の君は、丸腰だしな」
一人納得する様子が気に食わない。
「丸腰とは…?」
重ねて聞くと意味ありげにゲオルクは、シルビアを見る。
シルビアの手を取り、手のひらを上に向ける。
「君は、ただの街娘ではないな」
「!」
「この手は、剣を握ったことのある者の手だ」
「……」
この男…。
冷たい汗が背中を落ちていく。
「はな、…手を離して…」
「興味深いな。君のような美しい娘が剣を持つ理由」
「!」
「おっと、余計な詮索はやめておこう。君が何者かは聞かない。
護身用に習っているならばそれまでだ」
「……」
「だが隙は、見せるな。…生きていたいならな」
凄んだ声に無意識に体が縮んだ。
そうよ…。
私が剣を握るのは、自分を守るため。
生き抜くため…。
何としても生きてやるって決めたのよ。
あの日から…。
なに?
頭がフラフラする。
大尉の声が遠くなって…。
急に意識が…。
どうしたの、わたし。
大尉に面影が重なっていく…。
あれは、誰?
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