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「特に、月曜日が楽しみでね。派遣だから簡単に休むわけにもいかないと、無駄に意識を高くしていたのでしょうか、真っ青な顔でやってきて、ふらふらしながら席について仕事をするわけですよ。だから、わざと大きな物音をたてて、脅かしていました。仕事も押し付けて、辛そうにしているのを見て、私は、こっそりと楽しんでいたんです」
八つ当たりしていても、息子の引きこもりや、奥さんとのぎくしゃくした雰囲気は改善するわけではない。
虚しくならないのだろうか、と疑問を感じたが、私の目の前で思いだしている坂田さんはいきいきとしていた。
「あのう、派遣さんは、まだいらっしゃるんですか?」
私が問うと、坂田さんはふっと、表情を曇らせ「いますよ」と答えた。
そして、スマートフォンをよれよれのスーツの、胸ポケットから取り出した。
「これを、見て欲しくて取材に応じました。ありえませんよね。もう6年も前ですよ?私が……間違いをでっちあげて、追い出したはずなのに」
見せてくれた画像には、息子さんがスーツ姿で、家族の中心に立っていた。彼氏の部屋に入り浸っていたらしき娘さんも並んで、ほほ笑んでいた。
「2年浪人しましたが、息子は行きたい大学に合格しました。引きこもりになっていたときも、自分なりに勉強していたようで……妻や娘ともまだぎくしゃくしていますが、ようやく、普通に会話できるようになっていたんです」
今頃になって、どうしてと、坂田さんが、画像を指さした。
学校の校門、正門と思われる場所に家族は立っている。
坂田さんの背後、息子さんとちょうど間になる部分に、どんよりとした雰囲気の、痩せた女性がうつっていた。
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