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人気のない深夜の古い繁華街にそのビルは悠然と建っていた。
後藤は俺の高校時代の同級生だ。昔から人を食ったような所がある奴で高校卒業後は誰とも連絡を絶って、地元を離れたという。風の噂によれば東京でジャーナリストだかフリーライターだかになったらしいが、詳しい事は定かではない。
そんな後藤が突然俺に連絡を寄越したのが今日の朝。この街で事務所兼自宅を借りたから遊びに来いとの事だった。なにやら見せたい物があるらしく、わざわざ深夜のこの時間を指定してくるあたりに人の迷惑を考えない後藤の性格が表れている。
後藤の借りた事務所はビルの最上階である5階の一番奥の部屋だった。長い間誰も使っていなかったらしく、部屋はガランとしていた。
「よお、突然呼び出して悪かったな」
後藤は昔と変わらないヘラヘラとした様子で、俺を出迎えた。
「長い間電話も寄越さずに何をやってたんだお前は」
すこしも悪びれた様子がない後藤に少し呆れながらも、やはり旧友との再会は俺を懐かしくさせた。
「それにしても、よくこんな部屋借りられたな」
後藤のような男と対面して素直に顔を綻ばせるのはプライドが許さなかった。金の話は感情を落ち着かせる。
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