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 『いわくつき』、俺も薄々そんな気はしていた。真夜中のオフィスビルという怪談話にはありがちなシチュエーションである事を差し引いてもこのビルと部屋には底知れない不気味さが感じられた。  俺に断りもせずウィスキーの蓋を回しながら後藤は続けた。 「お前に見せたい物っていうのもソレなんだ」 『ソレ』というのは『いわくつき』の所以である現象の事だろう。とんでもない事を言う奴だと内心で思いつつも、やはり後藤の前で感情を表に出すのは状況を悪化させるだけのような気がして黙っていた。  後藤は既に開封されたウィスキーのビンを片手に持ちながらキョロキョロと辺りを見回して言った。 「あーでも俺がいると起こらないかもしれないな。そろそろいい時間だし、ちょっと俺は外に行くからお前はここに残っててくれ」  この言葉には俺も流石に驚いた。慌てて後藤を引き止めようとしたが、奴は取り付く島もなく「ついでに何処かで2人分のグラスを見繕ってくるから待ってろよ」と言い残して出かけてしまった。確かに引っ越したばかりだと言う部屋には食器類も見当たらなかった。  部屋に一人残された俺は仕方なく部屋の真ん中に座り込んでいた。なぜ壁際ではなく部屋の真ん中を選んだかというと、部屋の隅に座っていると自分自身がこのビルに巣食う幽霊か何かの一部になってしまうかのような気がして恐ろしかったからだ。     
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