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女は唇の端をにこやかに引き上げた。若い女らしいキラキラとしたリップが魅力的に光る。
「ねえ、そうしましょう?後藤さんが帰ってくるまでコッチの部屋で2人で飲んで、後藤さんが帰ってきたらコッチに呼んだらいいじゃないですか?」
確かにいい案だった。この部屋は一人で過ごすにはあまりに生活感が無さ過ぎる。
女が白い腕をコチラに伸ばす。俺はその手を掴むと窓枠に足を掛け、思い切って向こう側のビルの窓に跳んだ。勿論、片手には開封されていないウィスキーのビンを持って。
結局その夜、後藤が帰ってくる事はなかった。
女と俺は2人きりで後藤の話に花を咲かせながら(といっても俺が一方的に高校時代の後藤の話をしていただけだが)ウィスキーを飲み明かした。
いつのまにか女の部屋の床で眠ってしまっていた俺が起きた時、女はまだ後藤を待っているようだった。
「後藤さん、どこまで行ったんだろ」
そろそろ出勤の時間になった俺が部屋を後にする時、背後で女が呟いた。
夜中とは打って変わって雑音と賑わいを取り戻した昼間の繁華街を歩きながら、いつか後藤の墓参りにも行かなきゃいけないなと俺は思った。
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