一人目

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 指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った。  幼い頃、こうして約束を交わしていた人は多いのではないだろうか。  かくいう私もその中の一人である。  今日も私は沢山の男に抱かれながら、給料を得ている。そう、私はソープ嬢である。  昔は遊郭としても有名だったこの地には、名残としていくつかソープが並んでいるも、どこも古びていて、お客もまばらだ。  特に今の時期は閑散期で、フリーで入るお客が少ない。  私は待機室に戻ると、こたつに入り、スマホを手に取る。冬でも、ドレス姿で待機しなければならず、カーディガンを羽織ってはいるが、建物自体が古いため、隙間風が入ってくる。  私の他にも何人ものキャストが暇を持て余しながら待機をしている。  私はスマホでいつもやっているパズルゲームを開き、ピコピコと画面を触っていた。そんないつもの風景の中で、こんな話を聞いた。  私の隣のこたつに座っているキャスト二人の話が私の耳に入ってきた。 「ねえ、知ってる? ここの近くにさ、古い祠があるんだけど、なんかそこ、お客さんに聞いたんだけどさ、『指切り堂』って言って、そこにある石の上に、自分の血を垂らすと、指切りをした相手との約束が本当に叶うらしいんだって。本当にあると思う?」 「え、何それ、オカルト? まあ、この辺って江戸時代からあった遊郭の街だし? 確かにそんな祠もありそうだけどさあ。本当に約束が叶うなら、みんな行ってない?」 「まあ、そうだよね。でもさ、もしそれが叶うなら何叶えたいかなあ~」 「んー……。私はやっぱり金持ちと結婚したいかな。そしたらこんな仕事ソッコーで辞める」 「わかるー!」  キャッキャと私の隣にいる二人はそんな話で盛り上がっていた。 ――指切り  それは、この仕事をしている人間ならほとんどの者が知っている、事象。  遊女が客に愛情の普遍を誓う証として、自身の小指を切り落とし、それを贈るという習わしが由来だ。  私も、ソープ嬢であるからには、遊女と同じ、というわけである。
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