一人目

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 この由来を聞いたときに思ったことがある。当時の遊女の人たちは、ずっと長い時間、こんな屋敷の中でしか、色恋が出来ず、もし、客に恋してしまったのなら、それは儚いものだったろう。  今となっては、私たちはお金のためだけに、この仕事が出来る。性病検査だって毎月あるし、ここは高級ソープで中出しだってさせなければならない。避妊はピルで出来るとしても、性病や、子宮がんになる恐れ多大にある。  こうして一日中、広い待機室にいるのも、退屈。一回の客の単価は良いものの、それでも以前より安くなってしまった。  私は今年で二十八歳。そろそろ結婚だってしたい。身体に負担の少ない水商売もしたことがあるが、私はどうも喋るのが苦手で、お客を捕まえることが出来なかった。  だから、私は高校を出てから、就職に失敗し、フラフラしていたところ、当時ハマっていたパチンコと、ホストにお金を遣ってしまい、そのままソープへ流れた。  それからもう、十年近く、ソープ嬢として働いている。  田舎の親には、「スナックで働いている」と嘘をついているが、私は風俗嬢だ。  恋人もいたことがあるが、大体身体目当て。それとお金目当て。そんなくだらない男とばかり付き合ってしまって、私はもう、男というものが信じられなかった。  だから、私も隣で話していた女の子の話には共感する。  金持ちの男を見つけて、結婚して、こんな仕事を辞める。それから、専業主婦になって、主婦友とランチやディナーに行く。  それから若くてイケメンと不倫をする。  そんな理想的な妄想を私は繰り返ししていた。そんなときに、「指切り堂」の話を聞いてしまった。  私は興味が湧いて、そっと起き上がると、隣の女の子たちの会話に混ざることにした。
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