横溝家の一族

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「――間近で見るといっそうデカイな……」  白壁の間に口を開けたこれまた立派な門の前に立ち、僕は感嘆の声を上げる。  もうそれだけで充分威圧的であり、なんとも入りづらい雰囲気を醸し出しているお屋敷であったが、さらに訪問を躊躇させるような出来事が僕を襲う。 「何しに来たんじゃーっ! 余所者は出ていけぇーっ!」 「ひっ…!」  突然、長い白髪を振り乱した老婆が門を飛び出してきて、大声で僕を罵ったのである。 「おまえが来ると血の雨が降る! 余所者はとっとと出てゆくんじゃーっ!」  唖然と目を見開き、その場で固まってしまう僕に向けて、老婆は手にした竹箒を突きつけるとさらに怒鳴りあげる。 「これ! およしなさい、濃茶(こいちゃ)! お客様に失礼でしょう!」  だが、今度はそんな老婆に対し、凛とした厳しい声が傍らから飛んできた。  そちらを覗うと、老婆とは対照的に髪を綺麗に結い上げた美しい和装の中年女性である。 「お、奥さま……祟りじゃ~! 落武者様の祟りが起こるぞ~っ!」  すると、涼しげな切れ長の目で睨まれた老婆は、急に今にも泣きそうな表情を浮かべ、わなわなと大きく見開いた目を震わせながら、再び大声を上げて屋敷の奥へ走り去ってしまう。 「ごめんなさいね。うちで雇っている家政婦なんだけど、どうにも迷信深くって……ええと、何か御用かしら?」  突然の展開についてゆけず、ポカンと立ち尽くしていた僕に、美熟女は薄っすらと微笑みを浮かべ、やはり凛とした声で尋ねる。 「……あ、はい。えっと、今度となりに引っ越して来た金田ですが、一度ご挨拶にと思いまして……あ、これ、つまらないものですが……」  我に返った僕は慌ててそう答えると、持ってきた菓子折りを彼女に差し出す。ま、こんな大金持ちにはほんとにつまらないものだろうけれども……。 「まあ、それはご丁寧に。立ち話もなんですからどうぞお入りになって。家族をご紹介いたしますわ」  だが、そんな菓子折りも美熟女は慇懃に受け取ると、どこか上機嫌な様子で僕を豪邸内へと誘った。
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