横溝家の一族

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 これまた立派な玄関を入った後、赤い絨毯の敷かれたまるで高級和風旅館のような長い廊下を、僕は美熟女の後について言われるがままに進んでゆく……。  その廊下の左側は大きな池のある中庭に面しており、枝ぶりの良い松や草花が植えられ、値の張りそうな奇岩や石灯籠なんかも方々に置かれている……最早、個人宅とは思えないレベルに広くて立派な日本庭園だ。  と、そんなことを思いつつ、廊下を歩きながら庭園を眺める僕だったが……。 「…んん? ……うわあぁっ!」  ふと、目に飛び込んで来たものに思わず悲鳴を上げてしまう。  なぜならば、池の真ん中から人間の脚が生えていたからだ!  まるでアルファベットの「V」の字の如く、蒼白い裸の人の脚が逆さまに、水面からにょっきりと突き出ているのである! 「あら? どうかなさいました?」  いったい、あれはなんなのだ……非現実的なその光景に目を見開き固まってしまう僕に、前を行く美熟女が振り返って尋ねる。 「あ、あれは……?」 「ああ、あれは息子の佐清(スケキヨ)ですわ。おそらく主人を散歩させている最中にやられたんですわね……濃茶~! 濃茶はそこにいる~? 佐清がまたやられたから助けてあげてくれる~! もう、すみません。お恥ずかしいところをお見せして……さ、参りましょう」  しかし、震える手でそれを指さす僕に対し、彼女はまるで驚く素振りも見せず、あたかもありふれた日常の一コマのように先程の家政婦を呼び出すと、苦笑いを浮かべながら再び歩き出してしまう。 「さ、散歩? ……あ、ちょ、ちょっと待っ……ええぇ~?」  その予想外の反応には重ねて驚かされるが、さっさと行ってしまう彼女に置いていかれそうになり、慌てて僕もその後に従った――。
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