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「――いやあ、ほんと、後楽園とか兼六園とかみたいに、まるでお大名の庭園みたいですね」
先程、屋内から覗いた時もそう思ったが、やはり個人宅とは思えない、本格的な回遊式日本庭園である。
僕は松子さんの案内で池の周りを廻るようにして一通り観覧すると、その〝菊人形〟とやらの飾られている花壇へと誘われた。
「へえ~これが菊人形ですかあ……あ、これはご家族のみなさんに見立ててあるんですね」
何百本もの色鮮やかな菊を集めて作られたその等身大の人形は、頭の部分だけがマネキンになっており、それぞれが家族の一人一人を表わしているようである。
「この小さな二体が小梅さんと小竹さん、こちらの紋付姿の男性がご主人の要蔵さんですか? そのとなりの和装の女性が奥様、その横の白い菊でできた青年が佐清さん、で、こっちの振袖っぽい姿の女性が智子お嬢さ…」
だが、繊細な技で見事に作られたその菊人形を順々に眺めていった時のことだった。
「ひええっ…!」
僕はまたしても叫び声を上げてしまう。なんと、智子お嬢様に見立てたその菊人形の頭だけは、生きた人間のそれになっていたのだ。
しかも、若い女性のものではない。長い白髪を振り乱した老婆のその首には見覚えがある……それは先刻、門の前であった濃茶とかいう変わった名前のお手伝いさんだ。
「まあ! 濃茶、いったいどうしたというの!?」
これには松子奥様も驚いた様子で驚きの声をあげる。
「だ、旦那さまに……やられましたぁ……これも、落武者様の祟りじゃぁ……」
訊かれた瀕死の老家政婦は弱々しい声でそう答える。
一瞬、生首が置いてあるのかと錯覚したが、よくよく観察してみると、どうやら老家政婦を縛り上げて菊人形の内部に埋め込んであるらしい。
「主人に? 牢に入ってるはずだけど、もしかして逃げ出したのかしら……ああ、また変なものお見せしてしまってごめんなさいね。悪戯好きと言いましょうか、主人にはこういう子供っぽいところが少しありますの」
子供っぽいて……松子奥様はなんとも朗らかな笑みを浮かべてそう釈明しているが、池に刺さってた佐清さんといい、もう悪戯の域をはるかに超えていると思うのだが……。
猟奇的なご主人ばかりでなく、それを異常と思っていない奥様にも呆れてしまう僕だったが、驚くべきことはさらに続く。
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