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「……っ!?」
咄嗟に振り返った僕は、悲鳴を上げることもできずに言葉を失った。
そこには、角のようにして懐中電灯二つを頭に鉢巻きで縛り付け、腰には赤い襦袢を帯に日本刀を差し、手には一丁の猟銃を持った中年の男が立っていたのだ。
「あなた!? いつの間に牢から……ああ、あなたがやったのね……あなたが智子にこんなんことを……」
同じく背後へ目を向けた松子奥様は、彼を見るなり悲壮感に満ちた声で落胆するようにして呟く。
つまり、この奇妙な格好をしている男性がご主人の要蔵さんということか……気の病で暴れるとか言っていたが……じゃあ、彼が娘である智子お嬢様にこんな酷いことを……。
「逃げてください! このままここにいてはわたし達も殺されます! さあ、早くこちらへ!」
なんとも悲しく残酷な事実に僕が立ち尽くしていると、松子奥様は僕の手を取り、切迫した声の調子で僕を促す。
「…え? うわっ……は、はい……」
僕は手を引っ張られるままに走り出すと、奥様とともに蔵の奥へと向かった。蔵の出入り口は要蔵氏の後にあり、そこからは逃げられないからだ。
でも、このまま奥に行っても行き止まりのような……。
「よいしょっと……さあ、この中へ入ってください! 早く!」
だが、その疑問に答えるかのように、松子奥様は奥に置かれていた古い長持ちの蓋を開ける……すると、その中には階段が地下へと伸びており、どうやら秘密の抜け穴の入り口になっているようだった。
「さあ、早く! 入ったら蓋を閉めてください!」
奥様に急かされ、僕は転がるようにしてその中へと入ると、慌ててその重たい蓋を二人でもとに戻す。
「ここは……」
それから階段を降り、置いてあったランタンを奥様が灯すと、そこには巨大な洞窟が拡がっていた。
ランタンの明かりを反射し、壁や天井からぶら下がる猛獣の牙のような白い石がキラキラと輝いている……鍾乳洞だ。
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