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「まさか、こんな鍾乳洞がお屋敷の地下にあったなんて……」
「うちでは〝龍の顎〟と呼んでおります。ここに逃げ込めばもう大丈夫ですわ。この洞窟は屋敷の外へ通じてますのでそこから出ましょう」
それどころではないのだが、幻想的なその光景に思わず感嘆の声を漏らしていると、松子奥様は僕を安心させようとしてか、自身も胸を撫で下しながらそう告げる。
「では、早く外へ出て警察へ…」
しかし、安心したのも束の間、出口へ向けて歩き出そうとした僕は、視界に入った奇妙なものにまたしても目を見開いた。
ランタンに照らされた薄闇の中に、それは立っていたのだ……黒っぽい戦国時代の甲冑を着た鎧武者である。面貌という付属の面を着けており、その顔を覗うことはできない。
「落武者様ですわ! 遠い昔、横溝家のご先祖様が騙し討ちにした落武者の遺体が、この洞窟に葬られていると言い伝えられておりますの。その落武者様の怨霊が蘇ったんですわ!」
「そ、そんなバカな……」
濃茶さんが口にしてた「落武者様の祟りじゃ~」っていうのはこのことか? でも、そんな何百年も前の怨霊が蘇るなんてこと……。
俄かには信じがたいその話に僕が目をぱちくりさせている内にも、鎧武者は腰に佩いた太刀をスラリ…と抜いて、僕らの方へと歩み寄って来る。
「と、とにかく逃げましょう!」
今度は僕が松子奥様を促し、慌てて僕らは走り出した。
一寸先も見えぬ、暗く、ゴツゴツして足場の悪い鍾乳洞の中を僕ら二人はひた走る……背後からは、ガシャガシャと鎧の擦れる音を立てながら鎧武者も追い駆けて来ている様子である。
途中、幾度となく転びそうになったが、足を止めれば僕らの命もそれまでだ。もつれる脚に鞭打って、とにかく洞窟の出口目指して懸命に走った。
「ああ、あそこが出口ですわ!」
どれくらい走ったのだろう? 遠くに光の漏れている穴がやっとのことで見えてくる。
「よし、これでもう大丈夫…」
だが、気を抜かずにその光を目指し、ようやく外へ出られたと思った時のことだった。
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