安達祐実の大ファンだっ!

5/7
前へ
/7ページ
次へ
テーブルの皆は黙って頷いている。だが犬のリュウが登場する以前にすずはクラスメートのランドセルから塾の月謝を盗むという行為を働いている。すでにこのドラマが常識の枠を超えているのは明らかになっていたのだが、誰もその事を口にしない。同じ価値観を共有しているのだ。限りなく寛容な視点で互いを見ている。  この時サラリーマンが「ぎゃっ。」と叫んで椅子から跳びあがった。隣のカード使いの肩と腕を掴んでいる。彼が怖れ慄きながら見つめる床の上には一匹のゴキブリがいた。まるで挑むかのようにサラリーマンに近づく気配だ。  突然、カウボーイの45口径が轟音と共に火を吐いた。弾丸は一発でゴキブリの心臓を撃ち抜いていた。もはやピクリとも動かない。凄まじい腕前と言う他無かった。  安心した様子で再び椅子に腰を下ろしたサラリーマンがカウボーイに言った。 「バーボンを一杯奢らせてくれ。」肩をすくめて続けた。「そうしないと俺の気が済まないんだ。」 カウボーイは微笑を浮かべて無言のまま頷いた。カード使いはサラリーマンに掴まれた自分の肩を手のひらで二度ほど払ったが何も言わなかった。  さて、このBARの表の看板にそれらしき文字が書かれているわけでは無かった。だから安達祐実に無関心な客も訪れる。当然な事だった。そのようなとき店主は見かけない客であっても愛想良く近づく。そしておもむろに切り出すのだ。 「保阪尚輝と堂本光一。強いて言えばどちらが好みです?」     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加