幻視世界の天使たち  序

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「教授、すばらしいニュースがありますよ」 ユースフは寝ていたベッドから急いで上体を起こし看護婦の方を見た。そして看護師の白衣の後ろに恥ずかしそうに隠れているジンの姿が目に飛び込んで来た。ジンはユースフに近寄って言った。 「パパ。治してくれてありがとう」 ユースフは両手を広げてジンを抱いた。何か言おうとしたが不意に両目に涙が溢れて来て、うんうんと頷くのが精いっぱいだった。 その晩、日本では夜のニュースショーで博多湾での時期外れの竜巻についての報道がされていた。女性キャスターが記事を読んだ。 「本日午後三時ごろ、博多湾で大きな竜巻が発生して当時湾に停泊していた船のマストが折れるなどの被害が発生しました。気象関係者の話では、このあたりで過去竜巻が発生したという記録は無いが、このところの異常気象の影響で不安定となった気圧の急激な変化によってよってもたらされたものではないかと言う事です。この竜巻での死者やけが人はありませんでした。」 そのニュースを受けて、コメンテーターの大学教授が言った。 「最近、世界的異常気象のためか、世界各地でこのような災害が発生しているようですね。先ほど、ちょうど同じころ中央アジアのウリグシク共和国でも前触れなく、大きな竜巻が発生して近くの大学の校舎を壊したというニュースがありましたね。人類の自然破壊に対する警鐘と捉えるべきでしょう」 そして、少し間を開けて続けた。 「まあ、しかし最近は何でも異常気象で片付け過ぎかとも思いますが」 女性キャスターはカメラに向かって微笑んで次のニュースを読み始めた。    了
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