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終章
あーんと大口を開けて、箸で摘まんだそれを口の中に放り込んだ。
歯を入れると、カリッと香ばしい音がする。その後、ぷりっとした歯ごたえと共に、旨みが舌を刺激した。
それをじっくりと咀嚼し、飲み込んだところで、今度は幸せを噛み締める。
「……うまい」
本日の夕飯のおかずは唐揚げである。
「やっぱり現実の食い物のほうが美味しいなぁー」
うんうんと頷く明日夢に、向かいに座る鏡子は口を尖らせた。
「そう思うんだったら、仕事中も食べてばっかりいないで、真面目に仕事してくださいよっ。先輩、やる時はやる人なのに……」
昨夜の明日夢の仕事っぷりを思い出し、鏡子は嗜める。
「あぁー。聞こえない、聞こえない」
そんな彼女に、明日夢は首を振った。
「あ。そう言えば、夢主の人にはちゃんと結果報告して来たんですか?」
不意に思い出して、鏡子は訊ねた。
「ん? あぁ、今日の昼間に行って来たよ」
「反応どうでしたか?」
明日夢は赤くなっていた夢主を思い出して、含み笑いを零す。
「あの反応から見るに、読みは当たりだな」
今回は、不安が悪夢の原因だった。このような場合は、夢主には悪夢の原因を話すことが決まりとなっている。そうしないと、また同じ夢を視る可能性があるからだ。とは言え、明日夢が一時的に夢に封印を施しているので、その可能性はかなり低いのだが。
「近々ささやかながら式を挙げるらしいよ。婚約指輪が、結婚指輪に変わるわけだ」
はにかみながら語っていた真理子の様子を思い出し、明日夢は口元に笑みを乗せる。
「幸せな家庭になればいいですね」
それを聞いて、鏡子もつられて笑みを零した。
「そうだねー。新しい命も宿っていることなんだろうし」
そう言いながら、明日夢は唐揚げを口の中に放り込んだ。
すると突然、黒電話の音が鳴り響く。「仕事用」の電話だ。
「鏡子ちゃん。俺は食事で忙しい」
「はいはい」
ご飯と一緒に唐揚げを頬張る明日夢に、鏡子は仕方なさそうに苦笑した。
席から立ち上がり、電話のほうへと走っていく。
相変わらずやかましく鳴り響く電話に駆け寄った。鏡子は受話器を取る。
「はいっ、渡です。……はいっ、そうです! こちら、悪夢お悩み解決処、獏屋でございます!」
【了】
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