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未来職人はだらりと両手を垂らし、ぱたりと倒れる。指先から白い砂になり、吹き飛ばされて消えた。寿命がゼロになったのだ。未来職人の動力であるノゾムの精神力が底を尽きたのである。
ノゾムの未来は限られた。ノゾムには未来が見えなくなっていた。
残された未来は全て諦観と絶望でできていた。精神力もなく、肉体的にも憔悴しきったノゾムが帰宅途中の歩道橋から足を踏み外し転落したのはその一ヶ月後である。頭を強く打ち、搬送先の病院で両親に見守られながら命を落とした。ノゾムには生きようとする意志がすでになかったのだった。
夭逝する人間は統計上、未来職人の寿命を残したまま人間としての死を迎える。規則上、未来職人はパートナーの死を越えて生き続けることはできないため、パートナーが死ぬ間際に寿命を使い切らなければならない。ある者はパートナーの大切な人を守り、ある者は怨念のようなものを遺す。死ぬ間際の人智を越えた力の多くは、未来職人の寿命が表出したものである。
しかし稀に未来職人が先に寿命を終え、途切れた未来までを空虚に生きる者もいる。ノゾムの人生がまさにそれであった。
未来職人についての説明は以上である。
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