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接客業である両親の影響か、ノゾムは人間関係を築くことに優れていた。初めて会った別の学年の生徒とも、三十分あれば打ち解けることができた。低学年から必要最低限の敬語を使いこなしており、教師への言葉遣いも申し分ないものだった。
そのため教師やクラスメイトからの信頼が厚く、小学校高学年から高校三年生までずっとクラス委員や学年委員に推薦され続けた。ノゾム自身は期待されることが素直に嬉しかった。引き受けたこともあるし、スケジュールの都合や投票の結果で別の役員になることもあった。集団の中で自分が提案し導き統率する存在になるということに、ノゾムはやりがいを覚えていた。そこには酒屋の店長であり一家の長でもある父への憧れも含まれていた。
ノゾムは絵に描いたような几帳面であった。宿題は帰宅後すぐに取り掛かり、終わらせるまでは夕食・入浴・トイレ以外の用をしなかった。担任がクラスの生徒に呼び掛けたことについても考え、翌日への糧にした。例えば、小学校の近くに変質者が出たという報告があったならば、もし自分が遭遇したときにどう対処するかをネットで調べたりするのだ。
中学・高校時代であれば、試験が近くなってきた際には「ノート見せて」と頼ってくれる友人たち用にノートをまとめ直すなどしていた。どうすれば見やすいか、わかりやすいか、どのように言い換えて説明するか。そういったことを試験が近付くたびに考えていると、ノゾムの献身的な手ほどきがクラスメイトの間で評判になり、「ノゾム塾」が試験期間の恒例行事となるほどであった。自ずとノゾム自身の結果は好成績になり、クラスの何人かも点数を上げた実績があった。
未来職人が使用する糸は次第に指導者の色を多く含むようになっていた。それはノゾムの魂が求めていることである。ノゾムは自らの意見や提案が認められ、結果を残していくということに大きな快感を覚えていた。期待と結果が大きければ大きいほど、彼の命は輝くのだった。
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