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ノゾムと未来職人はパートナー関係にあるが、ノゾムに限らず人間には未来職人の存在を認識できない。また、未来職人には感情がないため、パートナーの逆境に対して手助けやひいきすることはない。このままいけば死に至る病にかかるとしても、それが彼の背負った因果であるならば病気になる未来を紡ぐしかなく、そこに未来職人の悲しみや同情はないのである。彼らは職人であり、未来を完成させるためだけに存在しているのだ。
ノゾムは教師を志すようになった。それは高校二年のころにはかなり具体化された目標となり、より一層勉学に励んだ。入っていた剣道部の活動も精を出した。教師になった暁には、剣道部の顧問になりたいと思ったからである。
担任教師もノゾムの両親も大学受験に関して心配はしていなかった。志望校三校とも模試では軒並みAかB判定を獲得していた。
当然のようにノゾムは第一志望校に合格した。また、高校三年間の成績が基準を満たしたため、無利子の奨学金制度を利用する資格を得た。第一志望校はノゾムの実家から離れたところにあったため、一人暮らしを余儀なくされる。自営業である両親に金銭的な心配をかけたくなかったノゾムは事前に要項を確認してあったのだった。
ノゾムのキャンパスライフは充実していた。仲の良い友人ができ、ゼミの教授とも研究室で雑談をする仲となった。教員課程を取るにあたって実習もあったが、「ノゾム塾」の経験を活かし、わかりやすい説明だと実習先で評価を得るほどだった。
ノゾム自身、無駄のない大学生活を送っていると感じていた。教員課程を落とすことはよほどのことがない限りありえない。大学四年の前期、試験二日目の時点ではそう思っていた。
あと十分で試験開始というところで、マナーモードになっていたノゾムの携帯が震えた。父親からの着信だった。父親は連絡不精でメールさえもなかなかよこさない。その父親から着信があるとは、何かがあったに違いないと瞬時に察した。
試験開始直前のため、学生は着席状態から動けない状態だった。着信は五回のコールで切れ、すぐにメールが入った。ノゾムは試験監督から隠すように机の陰で文面を読む。
『お母さんが倒れました。今病院にいます。意識がないです。帰ってこれますか?』
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