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 春から一人暮らしを始めた僕。となりの一〇一号室には誰も住んでいないはずなのに、時折物音がしたり、微かに女性の声が聞こえてきたりする。それは大抵真夜中で、時刻は深夜二時。普段怪奇現象とか幽霊とかには興味がない僕でも、やや不安になってくる。それに、この前テレビ番組で見たことがあるけれど、空き家にホームレスが住みついていることもあるそうだ。部屋の構造上、ベッドはとなりの部屋に面して置いていることもあって物音がはっきり聞こえてくる。  今日はいつにも増して激しかった。僕はひたすら身を硬くして、となりの部屋の物音に耳をすます。聞こえてくるのは、近くの畑で雨季を待ち望んでいる蛙たちの合唱と、遠くて鳴っている救急車のサイレン。そして存在しないはずのとなりの住人のうめき声。  正直言ってめちゃくちゃ怖い。一人暮らしを始める前は家に親がいて、兄がいて姉がいて、愛犬もいて少しうるさいけど寂しいと思うことはなかった。 今は一人。「おかえり」も「おつかれ」もない。 そんなことを考えているうちにだんだん意識が遠のいていく。あぁ眠い。浅い眠りから深い眠りにつきそうになっていたその時……。
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