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その暗闇の先には女性と思しき顔がこちらを覗いていた。
「うわっ!」
「きゃぁぁぁあ!」
僕は驚きのあまり、ベッドから転げ落ちた。
いや……きゃぁぁぁあ?
先ほど見た女性が幽霊だったとしても、いやに人間味がある。まるで僕が幽霊みたいな反応をするではないか。ある意味人間であるならばそれはそれで気味が悪い。僕はもう一度穴を覗いた。穴の向こうには薄っすらと照らされた部屋があるだけだった。部屋の中はとても殺風景で家具などは一切ない。やっぱりいつのまにか引っ越してきたということではなさそうだ。
もし悪意のある人ならとっくに襲われているだろうという勝手な想像のもと、向こう側にいる存在に声をかける。
「す、すいませーん……」
思っていたより情けない声が出た。返事はない。気のせいだったのか?すると、穴の向こうからうめき声が聞こえてきた。
「いったぁ……」
「あ、あの! だれかいるんですか……?」
「うげっ」
うげ?
「いるなら返事を━━」
「すいませんでしたぁあ!!」
穴の向こうからゴンゴンとなにかを打ちつけてる音が聞こえる。もう一度覗くと、その先にはこちらに土下座をして長い黒髪を振り乱しながら頭を床に打ち付けている女性がいた。かくしてとなりの部屋の怪奇現象の正体は、幽霊でもなく、ねずみや虫などでもなく、年齢不詳の女性であったのだ。
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