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「痛い……」
額を抑えてうずくまること数分。彼女はようやく顔を上げた。思っていたよりも大人っぽい顔つきでちょっとだけきれいめだった。
かなり強く打ち付けていたらしく、彼女の目にはうっすらと涙が出ていた。僕は救急キットの中から大きめの絆創膏を取り出した。
「絆創膏、付けたほうがいいよ」
穴の向こうにいる彼女も手を伸ばしたので、そのまま手渡した。彼女の指は細くしなやかで、そしてわずかに触れた指先からは暖かい温もりがあった。
「……ありがとう」
本当はいろいろなことを聞きたかったけれど、なんとなく触れてはいけない気がした。ほんの少ししか関わってないけど、悪い人ではなさそうだし。さて……。
「壁、どうしようか」
穴が開きっぱなしというのも、アレである。
「本当にごめんね。これは絶対私が責任持って直すからさ」
彼女は素直に謝罪した。そして彼女は穴から姿を消してどこかへ行った。少し経ってから戻ってきたと思うと一枚の紙を渡してきた。
「覗き見禁止、侵入禁止、聞き耳立てるの禁止って穴開けたのそっちだよね?」
「覗いたら殴るからね」
こわ。悪い人じゃないけど怖い人かもしれない。 突然、携帯電話が鳴り出した。朝を知らせるアラームで、いつのまにか起きなくてはならない時間となっていた。僕は学校へ行くぱっと済ます。
「それじゃあ僕は学校に行ってくるから」
散々迷った挙句、一応ひとこと残していくことにした。
「ん、いってらっしゃい」と穴の向こうから聞こえてきた。
久しぶりに聞いたその言葉。昨日よりもちょっとだけ特別な今日がはじまりそうだと、そんな予感がした。
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