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それは雨の日が一週間ほど続いて久々に晴れた日のこと。いつものようにおとなりさんが作ってくれた朝ごはんを二人で食べている時である。
「ねえ、二人でどこか出かけようか」
おとなりさんはおもむろにそう切り出した。僕はどきりとした。二人で、とわざわざ強調してきたことに意味を付加してしまいそうになるのをなんとか自制する。
「珍しいね。どうしたのさ」
「久しぶりの晴れだし、特に意味はないけどどこかに出かけたい気分なんだよね」
特に意味はないとか言われた。確かに、このすっからかんに晴れた外を見ると外に出かけようという気持ちが湧いてくるかも。
「行きたいところある?」
僕もこちらに越してきたばかりでそこまで詳しくないから、聞けるような立場じゃないんだけど。
「んー、ある。ひとつだけ」
そう言って、おとなりさんが提案してきたのはデパートだった。デパートならここからバスで三十分くらいのところにあるし、僕も一度行ったことがあるから心配はなさそうだ。
「それじゃあ、着替えてくるね。覗くなよ」
「覗いたら?」
「まず爪を全部剥がす。それから指を関節ごとに折る。それでも足りないようなら耳を削ぎ目を潰し舌を引き千切る」
「どこの武装集団だよ。怖いよ」
「当たり前じゃないの。もう覗こうなんて思わないくらい潰しておかないと後々厄介になることが多いんだよ」
「怖すぎるよ」
なんだか本気でやり兼ねないので僕も準備をすることにした。寝癖を直して、少し清潔感のある服を選ぶ。
着替えてきたおとなりさんの服は極めてシンプルだった。派手でもなければ地味でもない。しかし彼女にはとてもよく似合っていた。
「そろそろバスの時間だから出ようか」
僕たちは初デートの一歩を踏み出した。
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