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チェックアウト時の鍵の受け取りをするため、アリシアはイサムと最後の挨拶をしていた。鍵は受け取り、お金についても森役場から支払われるという役場の押印がされた証文をイサム経由で受け取ったので問題ない。むしろ問題は、イサムが居なくなることでまた収入がなくなってしまうという点にあった。
「イサムさんがずっと居てくれたら、すくなくとも一人分の宿泊費が手に入ったのに」
「志が低いなぁ。だったら、俺が業務報告をするついでに、このアパートの宣伝でもしようか?」
「本当ですか!」
「まぁ、経費精算が必要だからどうせ宿泊場所は報告するからな。住みやすいアパートだったって、一言追加しておくよ」
来た時と同じように、ズタ袋を二つ下げたロバの手綱を左手に握り、逆の手をアリシアに差し出す。
「ありがとうございます! イサムさんも、また森に来る時は泊まって下さいね」
イサムの右手を包み込むように、両手でがっしりと握手をすると、金の念を強く込めてぶんぶんと上下させるのであった。
「ついでに、賃貸管理をしたいという方も探してもらえると助かります。法人、個人は問いません」
追加注文には「まぁ善処はするよ」と濁し、イサムは森を去って行った。
〇アリシアの日記
初めまして、私は森=アリシアと申します。多少くだけた口語調になってしまいますが、そこはどうかご容赦頂きたいと思います。
さて、この日記を残している理由ですが、簡単に言いますと新しい大家さんに対する引継ぎが目的となります。
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