宿泊客・イサム

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 挙句は、たまに孫が顔を出したからと御馳走と大量のアルコールで出迎えてくれた酒宴の翌日、書置きを置いてこっそりと去るというのも大人としてどうなのでしょうか。多少深酒をしたため昼頃に起きた枕元に「相続対策としてアパート経営始めちゃった。でも、全然店子が入らなくて暇なので、ちょっと隣森の戦争に参加してくるね」とメモがあった孫の気持ちが分かりますか。  分かりませんか。そうですか。  私は悲しいです。おばあ様はとても賢く、呪術も腕力も強く、正に森の賢人と称えられる方だったのに、どうしてこんな初歩的なミスを……。  私たちエルフは寿命では死なないじゃないですか。相続、いつですか?  とにかく、早く帰ってきて、大家業をやって下さい。でないと、いつまでも私は都会に戻れません。                     敬具   大樹歴四千八百十二年 吉日                 森=アリシア  森=アイヴァスリル様  追伸 アパート経営に足止めをくらっている間に、都会で出会った彼氏と別れました。エルフにとっての一年は短くても、人間にとっては長いようです。 〇宿泊客・イサム  日は過ぎ去り、人間の里に照り付ける陽の光が降り注ぎ、木の葉が色づき、そして白い世界へと景色が変わっていく。そして新しい一年を迎え、また新たな新緑が目に鮮やかに映る頃には、人や町は一回り成長した姿になっている。     
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