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大樹の森のエルフは閉じられた世界に生きていたので、自給自足や物々交換で事足りていた。しかし、そんな前時代的な手法ではこってりとした食事にはありつけない。幸いな事に大樹の森にはここにしかない生態系があるので、薬草やペットの爬虫類等が輸出品として重宝された。また、エルフの工芸品も繊細さと珍しさもあって高い価値がついた。
ただ残念な事に、みな純朴で、相場を知らず、そして法律も知らなかった。薬草やペットはすぐに人間の郷で栽培、交配されるようになり希少性を失い、エルフの工芸品も模倣された類似品が市場に出回るのに、それほど時間はかからなかった。
そう、彼らは特許も商標も取っていなかったのである。
法律を知った頃には時すでに遅く、あらゆる資産が低価格の波にもまれ、競争力を急速に失っていった。
そんな中、残された資産として昨今注目されているのが、大樹の森という広大な土地自身であった。
大不動産時代の幕開けである。
「……というわけで、私たち大樹の森のエルフは外からの文化的侵略を受け、と同時に経済的な食い物にもされているのです。わかりますか、イサムさん。ちゃんと聞いていますか?」
そう語るエルフの女性と、苦い顔で立ち尽くす人間の中年が向かい合っていた。エルフの女性は森=アリシア。この大樹の森で唯一のアパート経営兼管理者、いわゆる大家さんである。それに向き合う中年は、やはりこの森で一人しか居ないアパート入居者であった。
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