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厳密にいうと、イサムという人間の中年は、森に目的があって短期的な宿泊施設を求めていたので、月単位の契約は必要としていなかった。そのため、アリシアはこっそりと民泊の形式を参考に日泊まりで提供する事にした。勿論、お上への許可申請はしていない。闇民泊である。
「はいはい、分かりますよアリシアさん。つまり、あなた達はお金に困っていると、そういう訳でしょ」
上着を少し捲り上げてお腹をぽりぽりと掻きながら、欠伸を一つするイサム。そんな聞く気のない態度も気にせずに、アリシアは我が意を得たりと大きくうなずく。
「そう、そうなんです。つまり、自給自足だった昔ならいざ知らず、今の時代はお金があって初めてエルフらしい生活が送れるという事なのです。というわけで……宿泊費を払って下さい」
「金などない!」
「威張らないでください!!」
居直りふんぞり返るイサムを前に、アリシアは膝から床に崩れ落ちた。
総神樹造りのアパートの床は衝撃吸収性に優れ、膝から落ちてもその痛みは通常のフローリング比で三分の一まで軽減されている。さらには振動や音も緩和するので、上階を歩く振動や隣の部屋から聞こえる騒音等の問題も少なく、苦情発生率は一般のアパートに比べて非常に低い。残念ながら、入居率はゼロなので、具体的な数字は出せないが。
「良いアパートだったら良い店子が入ると思ったのに……。いや、アパートにしたのおばあ様だけど」
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